先人の知恵の結晶=ビジネス思考を上手に使いこなすポイント

コンサルタントが世界一やさしく教えるビジネス思考(25・完)
太期 健三郎 だいごけんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

本コラムは連載25回目を迎え、今回が最終回となります。ビジネス思考の便利さ、面白さを毎回説明してきましたが、今回は上手に使いこなすためのポイント、使用上の留意点を説明します。読者の皆さんが今後、ビジネス思考を習得し、仕事を楽しく効率的に行う一助となれば執筆者としてこれに勝る喜びはありません。

■ビジネス思考は、便利で楽しい公式、定石

繰り返し述べてきましたが、ビジネス思考は複雑な仕事や問題に取り組む時に、それらを整理して考え、解決策を見つけやすくしてくれる便利なツールです。数学でいえば「公式」、語学でいえば「文法」、武道でいえば「型」のようなものです。ビジネス思考を使うと速く効率的に仕事を行え、同時に、成果の質が上がります。仕事のコスト・パフォーマンスが高まる、とても嬉しいツールなのです。

図表 QCDで比較―自己流で仕事をする vs ビジネス思考を使う

Q:Quality               
 自己流で仕事をする    (質) モレやダブりの発生など、粗い仕事になりやすい。     
 ビジネス思考を使う  高精度、質の高い仕事になる。
C:Cost
 自己流で仕事をする    (コスト) ムダな作業などが発生し、余計なコストが発生する。  
 ビジネス思考を使う  無駄なく低コストで行える。
D:Delivery
 自己流で仕事をする   (納期、スピード) 試行錯誤しながら進め、やり直しなどを行って時間がかかる。
 ビジネス思考を使う  明確なゴールに向かって段取りよく進められるため、スピーディに行える。

つまり・・・ コストパフォーマンスが低い コストパフォーマンスが高い

■分かったつもり、使ったつもり?――ビジネス思考は、使うことが「目的」ではなく、あくまでも「手段」「道具」

このように、ビジネス思考は非常に便利なツールですが、「分かったつもり」で本当には理解していなかったり、「使っているつもり」で十分には使いこなせていない人が少なくありません。

私が企業研修の講師を行う時にしばしば起こることを例として示しましょう。「『SWOT分析』を知っていて説明できる人いますか?」と尋ねると、自信満々に手を上げる人がいます。説明してもらうと「SWOT分析は、強みの「S」、弱みの「W」、機会の「O」、脅威の「T」の頭文字をとったものです」とスラスラ話してくれるのです。「そうですね。それで、その四つを分析して何を行いますか?」と続けて聞くと、「えーと……(と考えながら、しばし沈黙)。あ、自社を客観的に分析します……。それで……」としどろもどろになってしまうのです。

※SWOT分析とは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の四つの視点(その頭文字をとって「SWOT」)で事業を総合的に分析するフレームワークです。

SWOT分析の説明を行った後、グループワークでケーススタディに取り組んでもらいます。グループごとに10ページくらいのケースを読み込み、SWOTに整理を始めました。各チームともSWOTによる整理は上手にできていたのですが、それを分析して「今後どんな施策を行うべきか」までを提示できるのはだいたい5チーム中二つくらいです。

SWOT分析の頭文字が何を意味するのかを知っていることと、SWOT分析を理解していることは違いますし、SWOT分析は「SWOTの四つのフレームワークを埋めること」ではありません。

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「分かったつもり」で表層的に使うだけでは、ビジネス思考の「公式」「定石」としての威力を十分に発揮させることはできませんし、自ら考える力、応用力は身に付きません。

これを試験勉強に例えれば、カッコ型の穴埋め問題や選択式問題は解けるけれど、少し難しい応用問題や論述式問題が出題されるとお手上げになる――ということに似ています。

仕事でも生活でもビジネス思考が必要となる場面は、未知のこと、困難な仕事に遭遇した時です。それらは決まったやり方で毎回答えが出るものではありませんし、状況や立場によって正解は異なる(唯一の絶対的な正解はない)ものなのです。

一番怖いのは、分かったつもりになってビジネス思考で情報を整理するだけで満足してしまい、その後、思考停止してしまうことです。

習得し、正しく使いこなすポイントは「このツールを使うのは、何のためか?」「このビジネス思考の本質は何か?」などを考えながら、繰り返し使い続けることです。

■これだけは絶対に習得してほしい二つのビジネス思考

25回の連載で多くのビジネス思考を説明してきました。執筆で心がけたのは「仕事や生活での身近な事例を使って」「小難しくなく、分かりやすく」「面白く」説明することでした。それが少しでも果たせていればよいのですが。

さて、今まで説明してきたことを簡単に振り返ってみます。( )の数字は連載の回数です。
(1)ビジネス思考とは、
(2)ビジネス思考の全体像、
(3)問題解決、
(4)問題解決の各ステップで使用するビジネス思考一覧、
(5)クリエイティブ・シンキングとロジカル・シンキング、
(6)クリエイティブ・シンキング、
(7)ロジカル・シンキング[1]「MECE」、
(8)ロジカル・シンキング[2]「ロジックツリー」、
(9)ゴールからの逆算思考、
(10)PDCA、
(11)目標設定の「SMARTの原則」、
(12)マッキンゼーの7Sモデル、
(13)SWOT分析、
(14)バリューチェーン、
(15)マーケティングとは、
(16)マーケティングの4P、
(17)AIDMAの法則、
(18)AIDMAからAISASへ、
(19)ビジネス・コミュニケーション[1]、
(20)ビジネス・コミュニケーション[2]、
(21)企業ピラミッド、
(22)OJTとOFF-JT、
(23)リスク・マネジメント、
(24)アウトソーシング、そして
(25)ビジネス思考の総まとめ&使いこなすポイント(今回)――です。

図表 連載で説明してきたビジネス思考

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この中で、これだけは絶対習得してほしい!とオススメしたいビジネス思考は「問題解決」と「ビジネス・コミュニケーション」です。年齢、職種、ポジションを問わず全てのビジネスパーソンに必須の基本スキルです。基本スキルですが、「基本」=「簡単」というわけではありません。この二つがビジネスパーソンの“OS”(基本ソフト)で、他のビジネス思考がその上で機能する“アプリケーション”と考えてください。ぜひ、該当回のコラムを読み返し、習得していただきたいと思います。

今回は、使いこなすポイントとして、あえて「使用上の留意点」を書きました。しかし、ビジネス思考は難しいものではなく簡単でシンプルなツールです。

ビジネス思考は、経営者やコンサルタント、経営学者など先人たちが試行錯誤を繰り返しながら作り上げた知恵です。これを使わない手はありません。

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「転ばぬ先の杖(つえ)」、「備えあれば憂い(うれい)なし」。企業も個人もリスクマネジメントをしよう!

コンサルタントが世界一やさしく教えるビジネス思考(23)
太期 健三郎 だいごけんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

「リスクマネジメント」「危機管理」への関心・意識が、この1年ほど、急激に高まっています。そのきっかけは二つあります。一つは昨年3月11日の東日本大震災、もう一つは、大王製紙、オリンパスなどの経営トップによる不祥事の発生です。リスクという言葉は、なかなか日本語に当てはめにくい言葉です。ハイリスク、ハイリターンなどと使われますが、「危険」とも少しニュアンスが違い、厳密には「不確実性」を示します。今回のコラムでは、リスクマネジメント、危機管理という文脈の中で、リスクとは「起きたらイヤなこと」として説明していきましょう。

■「企業にとってのリスク」を、頻度と影響度からマッピングする

リスクマネジメントとは「リスク発生を予防し、もし発生してしまったら被害を最小限にとどめる一連の活動」のことです。先にも書きましたが、リスクとは、発生したらイヤなこと、困ること、損害を発生させるものです。

企業にとってのリスクには、法令違反、社員・役員の不祥事、個人情報の漏えい、自然災害(地震、大雨、洪水等)など、さまざまな種類があります。

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例えば、皆さんの記憶に新しいところでは、大王製紙の元会長への不正融資や、オリンパスの不正決算など経営トップによる不祥事があります。これはガバナンス(企業統治)不全というリスクです。もう一つは企業経営に大きな影響を与えた、昨年の東日本大震災やタイの大雨大洪水などの自然災害リスクではないでしょうか。

■リスクマネジメントの基本は「予防」

リスクマネジメントの定義を前述しましたが、基本は「予防」(発生防止)です。その上で、もし発生しても被害の拡大を防ぐ、二次的被害発生の防止するなど被害を最小限に食い止める(とどめる)ことも、リスクマネジメントの重要な側面になります。

なぜ、基本は「予防」なのかと言えば、発生後の対応コストや損失額に比べて、発生前の予防コストの方がはるかに小さいからです。

今年、インフルエンザは過去10年間で2番目という規模で大流行しましたが、「インフルエンザ、風邪」を例に説明しましょう。

インフルエンザや風邪は、どちらも対策の基本は「予防」です。具体的には、手洗い、うがいを欠かさず行う。予防接種を受ける。疲れていたり、体調が悪いときにはなるべく人混みに出ない。マスクを付ける――などがあります。

万一、かかってしまったら、栄養、消化の良いものを食べて、しっかり休養をとり、こじらせないようにすることが基本ですよね。また、家族や職場の人にうつさないように気をつけることは二次被害の拡大防止と言えます。これが事後に被害を最小限にとどめることです。



予防にかかるコストと、発生した場合の対応コストや損失額を比較してみましょう。

手洗い、うがいを行う手間や時間、マスク、予防接種に必要なお金は、インフルエンザ、風邪にかかってしまった場合のコスト(診察費、薬代等)や、時間の損失、肉体的・精神的苦痛などの被害に比べてはるかに小さいことは明らかです。「注意一秒、ケガ一生」という言葉は、リスクマネジメントの基本は「予防」という本質を示した言葉だと思います。

繰り返しになりますが、「企業リスクは発生させない! 発生してしまったら、被害を最小限に抑える」がリスク・マネジメントの大原則です。

インフルエンザ、風邪に置き換えれば「かからない! かかってしまったらこじらせない」となるでしょう。

■「PDCA」サイクルで見る、リスクマネジメントの推進ステップ

リスクマネジメントの推進ステップを簡単に説明します。基本的な考え方は通常の「PDCA」サイクル(PLAN(計画)→DO(実行)→CHECK(評価)→ACTION(修正))です(コラムバックナンバー第10回「PDCAを正しく理解、実行すれば、仕事の質とスピードは飛躍的に高まる!」〔本記事下の「関連記事」参照〕をご参照ください)。

1.PLAN(計画)



(1)自社の事業に関わるリスクの洗い出しを行います。

(2)洗い出したリスクの評価を行います。通常、「発生頻度」と「発生時の被害の大きさ」の二つの基準で評価を行います(前掲のリスクマップ参照)。

(3)洗い出しと評価付けをしたリスクに、会社として対応する優先順位付けを行います。

(4)リスク・マネジメントを推進する際の基本原則を示す「リスクマネジメント・ポリシー」と、個別リスクへの「ガイドライン(≒対応マニュアル)」を作成します。

(5)リスクマネジメント、各種ガイドラインを社員に周知します。一方的な説明ではなく、理解、納得を心がけます。

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2.DO(実行)



(6)リスク・マネジメントについての社内、社外からの問い合わせに対応し、蓄積します。蓄積された問い合わせは運用体制や各種ルールの見直しに役立つ貴重な情報です。

(7)リスク・マネジメントの意識を高め、浸透、定着させるために、継続して啓発活動を行います。一時的な活動で終わらせないために、地道に愚直に続けます。

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3.CHECK(評価)



(8)リスクマネジメントの運用状況の評価、測定を行います。リスク・マネジメントに関わらず、始めたら始めっ放しでチェックを怠る企業は少なくありません。確実にPDCAサイクルを廻(まわ)すポイントはCHECKにあります。

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4.ACTION(修正)



(9)CHECKの運用状況の評価、測定を受けて、ガイドライン、運用ルール、運用方法の見直しを行います。このメンテナンス続けることで、リスク・マネジメントの形骸化を防ぐことができます。

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■リスクマネジメントの視点から、個人のキャリアを考える

最後にビジネスパーソンとして、リスクマネジメントの視点で仕事のキャリアを考えてみましょう。長い職業人生ではさまざまなリスクが存在します。例えば、問題上司によるパワーハラスメント、セクシャルハラスメントや勤務先の倒産、リストラ等による失業、病気やケガによる休職……等々。

企業に勤めれば一生安泰という時代ではなくなってきた今、それらのリスクへ備える必要性は高まりつつあります。事前に予防、対策を行えるものもあれば、行えないものもあります。

しかし、60歳、65歳までと働き続ける中で、どんなリスクが存在するのかを把握し、予防策と発生時の対応策を考えておくことは、とても大切なことだと思います。

下の表が、個人の人生におけるリスクを例示したものです。
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では、具体的にどんなことを考えれば良いでしょうか。いくつか代表的な方策を三つ例示したいと思います。

一つ目は、自分の能力、適性などを客観的に把握し、自分に適したフィールド、土俵を見つけること。不適切な仕事、働き方を続けることはリスク発生確率を高めます。

次に、エンプロイアビリティ(雇用されうる能力のこと。Employ(雇用する)とAbility(能力)を組み合わせた造語)を高めることです。具体的には、仕事に求められる知識やスキルを獲得することでしょう。これはリストラなどの失業の可能性を減らし、失業しても新たな仕事を獲得しやすい、という予防と事後対応の両方に有効なことです。

三つ目は、多少のリスクが発生しても、それに対応できる健康(肉体的健康と精神的健康)と、ある程度の蓄え(働けなくなっても3カ月から6カ月は暮らしていける貯金)を持っていることでしょう。

進化論を提唱したダーウィンは言っています。「強いものが生き残るのではなく、変化に対応できる種が生き残る」のだと。

ビジネスパーソンのキャリアを考える上で大切なことは、自分が働く最適の環境を見つけ、変化に対応できる力を身に付けることではないでしょうか。

いずれにしても「転ばぬ先の杖(つえ)」「備えあれば憂い(うれい)なし」です。リスクを把握して「曖昧(あいまい)な不安」を解消し、「健全な危機感」を持ちたいものです。

「OJTとOFF-JT」を好循環させれば、部下、後輩は確実に育つ!

コンサルタントが世界一やさしく教えるビジネス思考(22)
太期 健三郎 だいごけんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

「なかなか若手が育たない……」「人材育成の必要性は感じているけれど、どうやれば良いか分からない…」。人事コンサルティングを行っているとよく耳にする言葉です。そんなときは、まずOJT、OFF-JTの実施概要などを簡単にお聞きした後、「両者を連動させて運用していますか?」と質問します。OJTとOFF-JTは独立した別個のものではなく、連動させて行えば人材は確実に育ちます。そして、これはビジネスパーソンが自己成長する時にも言えることなのです。

■OJTとOFF-JT

OJTとOFF-JTという言葉を聞いたことがあると思います。企業内で人材育成を行うときの方法です。

OJTとはOn the Job Trainingの略で「職場内訓練」と訳されます。日常業務を通して職場でスキルや知識を習得することです。

OFF-JTとはOff the Job Trainingの略で「職場外訓練」のことです。日常業務や現場を離れて、集合研修、セミナー、通信教育などでスキルや知識を学びます。

社員を育成するためには、OJTとOFF-JTを連動させてバランスよく行う必要があります。しかし、OFF-JTを行えていないことへの言い訳として「わが社の人材育成はOJT中心です」と言ったり、現場へ丸投げでOJTを行わせたり、OJTとOFF-JTが連動していない企業は少なくありません。

[図表1]は、人材育成の機会(OJT中心か、OFF-JT中心か)に関する調査データです(労務行政研究所実施)。これを見ると、OJT中心とする企業が多いようです。一方で「OFF-JT中心」と回答した企業はありませんでした。

         

労務行政研究所「企業の教育研修に関する実態調査」(2011年)より抜粋

人材育成では、どのような人材に育てたいかという「あるべき人材像」を具体的にして、育成方法の全体像を描き、OJTとOFF-JTを企画、実施することが有効です。

OFF-JTは基本、理論を学び、OJTはそれを実践して習得します。
「分かる」と「できる」は違います。理論を理解しても、それをすぐに完全には実行できないものです。


基本を教えることなく仕事を始めさせるのは「泳ぎ方を教えずにいきなりプールに投げ込む」ようなものです。泳げるようになったとしても、それは我流であるため、その後のさらなる成長は遅くなります。

[図表2]OFF-JTとOJTの良循環
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■OJTとOFF-JTをリンケージ(連動)させるには?

OJTとOFF-JTを連動させるには、どうすれば良いでしょうか。

まず最初に、あるべき人材像(どのような人材に育ってほしいか)を具体的に描くことです。必要な知識、スキル(技術、ノウハウ、思考法など)を具体化し、それを習得するための育成方法を考えます。体系的なCDP(キャリア・デベロップメント・プログラム)という本格的なものを設計する企業もありますが、最初はそこまでしなくても良いでしょう。

人材育成とは、「あるべき人材像」と「現在の姿」のギャップを解消するプロセスなのです。

[図表3]人材育成とは

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例えば「リーダーシップ」を持った人材に育てるというケースで考えてみましょう。

リーダーシップといっても階層、職種などによって求められるものは異なります(※注参照)。課長と現場リーダーでは必要なリーダーシップは異なる【職位による違い】でしょうし、人事、総務などの管理部門のリーダーと飲食店店長のリーダーシップも異なります【職種による違い】。

それぞれの業務で必要とされるリーダーシップを具体的に考えることが大切です。
まず基本的には、理論を理解させるのはOFF-JTです。集合研修で教えるのが一般的ですが、対象者が少ない場合などでは社外のオープンセミナーに参加させることも一つの方法です。コスト(時間と費用)に余裕がなければ、まずはリーダーシップに関する通信教育やビジネス書を利用することから始めると良いでしょう。

次にOJTで実践させます。
繰り返しますが、「分かる」と「できる」は違います。リーダーシップを理解しても、職場で部下に対してリーダーシップをすぐに発揮できる人は少ないでしょう。やってみて、うまくいかず、試行錯誤しながら少しずつ習得していきます。

その後、リーダーシップ応用編のようなフォローアップ研修や、マンツーマン指導を行うと効果的です。
職場でリーダーシップを十分に発揮できなかったのはどんな場面か? その原因は何か?――などを振り返り、その解決策を考えさせます。

このような形で、OFF-JTとOJTをリンクさせて継続的に行うことが、効果的で確実に人材育成を行う一番の近道です。OJTとOFF-JTが相乗効果を発揮して機能し、人材育成費全体のコストパフォーマンスが飛躍的に高まります。

※注:「リーダーシップ」という言葉同様、期待する人材像、スキルを考えるときに抽象的な言葉は要注意です。例えば「戦略的思考を持った人材」とは具体的にどんなスキル、思考特性を持った人材でしょう?

最近よく耳にする「グローバル人材」という言葉も曲者(くせもの)です。単に外国語を使える人がグローバル人材ではないでしょう。事業、国、地域、役割によって求められる「グローバル人材」は異なります。抽象的な言葉はブレークダウンして具体的にしていくことが大切です。



■個人の自己啓発でも同じ

OJT、OFF-JTは企業の人材育成だけの話ではなく、個人の自己成長でも同じことです。「基本、理論、原理原則」を学び、実践しながら習得する。できなければ基本に戻り、軌道修正を繰り返します。それを愚直に続けることが成長する一番の近道だと思います(「型破り」という言葉がありますが、「型」とは基本のことです。型破りとは、基本=型を身につけた人ができることです。「型」がない人は、型破りではない「単なる我流」で「かたなし」の人です)。

■ テニスを例にOJT、OFF-JTを考えてみる

さて、最後にテニスを例に日常生活でOJTとOFF-JTを考えてみましょう。

テニスで基本、理論、原理原則とは何でしょうか? 道具の選び方・使い方、ルール、基本フォーム、練習方法などいろいろとあります。それを理解した上で、素振り、練習、試合などの実践など行います。実際にプレーしてみると、理解したつもりの基本を実践できないことも多いはずです。まさに「分かる」と「できる」は違うのです。

望ましいのは、最初に本やレッスンできちんと基本を学ぶことです。「急がば回れ」です。基本を学ばないで我流で始めると、スイングの悪い癖などがついてしまい、それを後から修正するにはかなりの時間がかかるからです。そして、その後の上達を遅くします。

ビジネスでも同じです。できれば、悪い癖、習慣が身につく前の「まっさらな素直な状態」のときに、しっかりと基本を教えておくことをお勧めします。

では、最もまっさらな状態である、新入社員については、何から教えるのがよいでしょうか? 私が人材育成でお手伝いしている企業では、新入社員研修はビジネスマナーに加え、必要最低限の「思考力」、「コミュニケーション力」などが行われていることが多いです。

経営者から担当者まで、全てのビジネスパーソンにとっての必須知識「企業ピラミッド」

コンサルタントが世界一やさしく教えるビジネス思考(21)
太期 健三郎 だいごけんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

「企業ピラミッド」という言葉を聞いたことはありますか? 企業経営に必要な要素をピラミッドに喩(たと)えたものです。企業理念、ビジョン、経営戦略、オペレーション、スタッフ各自のアクションと、抽象度の高いものから具体的なものへ繋がっていきます。
企業で働くビジネスパーソンにはぜひ知っておいてほしいビジネス思考です。同時に、仕事を離れた一人の人間として幸せに、充実したLIFE(生活、人生)をおくるためにも役立つ考え方です。

■企業ピラミッドを構成する要素

エジプトのピラミッドが何層にも石が積まれているように、企業ピラミッドもいくつかの階層で構成されています。



1. 頂点にあるのは企業理念です。企業理念は、企業の存在意義や使命(ミッション)を普遍的な表現で示すものです。

2. 二段目のビジョンは、経営理念に基づいて、ある時点までに(例えば10年後までに)「このような姿になっていたい」と目指す状態、イメージです。

3. 三段目には経営目標がきます。経営目標は、経営理念を実現するための目標を定量的(数値)、定性的に示すものです。長期的なビジョンに比べると、3カ年、5カ年など中期の目標を策定します。中期経営計画と呼ばれることもあります。

4.四段目は経営戦略です。経営理念、ビジョン、経営目標を実現するための方策です。経営戦略は、全社的な視点(全社戦略)、個別事業の視点(事業別戦略)、機能ごとの視点(機能別戦略)という三つの視点で策定されます。


① 全社戦略

どの領域(事業ドメイン)で戦い、どのように事業を組み合わせ(事業ポートフォリオ)、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を配分するかを決定します。複数の事業を推進する場合、企業全体の視点で全社最適を計らなければなりません。

② 事業別戦略

各事業において競争に勝つために事業戦略を考えます(※注)。例えば、総合飲料メーカーでは、清涼飲料事業、健康飲料事業(お茶、ミネラルウォーター)、アルコール飲料事業など、事業ごとに戦略を策定します。事業戦略では各事業の個別最適を追い求めてしまいがちです。そこで、前述したように、全社戦略で事業間のシナジー(相乗効果)、経営資源の配分などの全体最適を考えるのです。
※注:単一の事業しか持たない企業では、全社戦略=事業戦略となります。

③ 機能別戦略

事業別戦略を実現させるために、人事、財務、マーケティング、研究開発、生産、営業、情報、など機能ごとの視点で策定されるものが機能別戦略です。

5.最後の五段目にはオペレーションがきます。オペレーションは戦略を実現するための戦術で、具体的な行動計画(アクションプラン)に展開していきます。部門別、個人別に行動計画として落とし込み、一つひとつを確実に推進していきます

経営目標、経営戦略が十分に実現されている企業はオペレーションがしっかりしています。一番下の土台が本物のピラミッドを支えているように、企業ピラミッドもオペレーションを行う現場の人たちの働きが支えているのです。

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『ビジネス思考が身につく本』(太期健三郎著 明日香出版社)の図表を基に作成 (クリックして拡大)

■整合性、一貫性はとれているか? シナジーは?

企業ピラミッドを構成する要素は、一貫性と整合性を保たせる必要があります。

一貫性、整合性とは、縦の一貫性(企業理念からオペレーションまでの階層)、横の整合性(事業間、機能間)、全体での整合性、そして、時間軸での一貫性、整合性です。

長い時間成長し続けている企業は、一貫性、整合性が保たれているのです。

そして、経営目標、経営戦略、オペレーションなどは策定するのが大事なのではなく、確実に実行されることが何よりも重要です。そのために、各階層でPDCAサイクル(※注)を廻(まわ)していくことです。計画し、実行し、計画通りに進まなければ軌道修正をします。その上で、各活動プロセスと成否の結果を振り返り、社内にナレッジとして蓄積します。そのような愚直な企業活動を続ける企業は、強い企業として成長していくのです。

※注:PDCAサイクルPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(修正)の頭文字をとったもので、業務の品質の維持・向上や継続的改善を推進するマネジメント手法です。



ビジネスパーソンとして、自分が働いている企業のピラミッドを考えることはとても意義のあることです。各構成要素の内容、そして、全体としての一貫性、整合性が保たれているかを一度、考えてみましょう。これを行うことにより、目の前の仕事を処理するだけでなく、自分の仕事、所属する部署の役割、業務が、企業の中でどのような位置にあり、機能しているのかということが分かります。

それを行った後は、顧客企業や、競合企業などの企業ピラミッドを同様に考えてみてください。

それらの思考プロセスを通して、仕事における中長期的な視点、大局観を得ることができます。



■自分ピラミッドを描くと、人生は幸福で充実したものになる

企業ピラミッドについて理解してもらえたと思います。これは、個人のLIFE(生活、人生)にも使えるものです。

企業理念、ビジョン、経営目標、経営戦略、オペレーション。これらを個人のLIFEに置き換えるとどうなるでしょう?

企業理念は、あなたの価値観、信条(ポリシー)、行動指針などに該当します。

ビジョンと経営目標は、個人に置き換えれば、10年後、20年後、何をやっていたいか、どのように生きていたいかというイメージ、目標、計画となるでしょう。

経営戦略は、上記の目標、計画を実現するための方策です。企業での事業別戦略は、個人ではいくつかの役割と考えてみると良いでしょう。個人としての役割、仕事人の役割、夫もしくは妻の役割、親としての役割など、それぞれの役割ごとに戦略を策定しましょう。

機能別戦略は、戦略を実現するための手段、方法として「健康戦略(健康と体力)」「成長戦略(学びと成長)」「財務戦略(文字通りマネープラン)」「生産戦略(仕事の生産性)」「キャリア戦略」などが挙げられます。

オペレーションは上記戦略を実現するためのアクションプランです。具体的な行動計画に落とし込み、一つひとつ実行していきましょう。

自分の個人ピラミッドを考えることで、企業ピラミッドをリアルに理解することができます。同時に、幸福で充実した人生をおくる一助になるのではないでしょうか。



(今回のコラムは、以下の書籍を参考にしました)

『仕事が10倍速くなる ビジネス思考が身につく本』 (太期健三郎著 明日香出版社)

『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』 (永田豊志著 ソフトバンククリエイティブ)

ビジネス・コミュニケーション(2)「コミュニケーションを飛躍的に高めるチェックリスト「5W2H」)


コンサルタントが世界一やさしく教えるビジネス思考(20)
太期 健三郎 だいごけんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

前回のコラムでは、ビジネス・コミュニケーションの重要性と、三つのポイント(Why、What、How)を説明しました。2回目の今回は、コミュニケーションで大切な視点「5W2H」を営業・販促という場面を例にして具体的に説明します。「5W2H」をチェックリストにして、ビジネス・コミュニケーションのコストパフォーマンスを高めましょう!

打ち合わせ、商談、報告・連絡・相談、交渉……。ビジネスのさまざまな場面でコミュニケーション・スキルが求められます。コミュニケーションの上手(うま)い・下手が仕事の成否、生産性を決めると言っても過言ではありません。
前回はコミュニケーションを考える三つの基本的な視点(Why、What、How)について述べました。今回はその三つを含めた、ビジネス・コミュニケーションの「5W2H」を説明します。



■「5W2H」は、コミュニケーションの便利なチェックリストだ

5W2Hとは、Why(なぜ?)、What(何を?)、How(どのように?)、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が/誰に)、How Much/How Many(どれくらい)――の頭文字をまとめたものです。ここでは、「営業、販売促進」を例に、一つずつ簡単に説明していきましょう。

(1)Why(なぜ?)
Whyは、そのコミュニケーションを行う理由、目的です。ここでは理由、目的だけでなくゴール(コミュニケーションの目的が果たされた状態)を明確にすることが大切です。七つのチェックリストの中で最初に考えるべき、最も重要なものです。
例えば、営業プロセスで顧客とコミュニケーションを行う際、目的、ゴールは「商品の認知促進」なのか、「顧客のニーズ把握」なのか、「提案(プレゼンテーション)」か、「クロージング」なのか――などを考えます。この目的とゴールを明確にすることで、(2)以下の具体策を決めやすくなります。

(2)What(何を?)
Whatは、何を伝えるか?――というコミュニケーションの内容、コンテンツです。
例えば、営業プロセスが進むにつれて、「商品の概要」「使い方など商品の詳細・他社商品との違い」「価格」「支払い条件」など、伝える内容はより具体的になっていきます。

(3)How(どのように?)
Howは、どのように行うか?――という方法、手段です。
目的によって、eメール、ファックス、郵便/宅配便、電話、対面など適切な方法は異なるでしょう。コミュニケーション手段については後ほど詳しく説明します。

(4)When(いつ?)
Whenは、いつ行うか?――というコミュニケーションを行う時間、タイミングです。
どのタイミングが、相手に「伝わる≒受け入れられる」ために最適かを考えます。これは午前/午後/夜など時間帯のレベルから、コミュニケーションの相手の状況――ニーズ、仕様が固まっているか、予算確定前か後か、など――によるタイミングまで、さまざまです。

(5)Where(どこで?)
Whereは、コミュニケーションを行う場所です。
目的によって、インターネット上、セミナー会場、展示会、自社or顧客先の会議室、など最適な場所を選びます。時には懇親、接待で飲食店、ゴルフ場などの場合もあるでしょう。

(6)Who(誰が?/誰に?)
Whoは、誰が行うか?――というコミュニケーションの主体と、誰に行うか?――という客体(相手、対象者)の両方を指します。
商品・サービスの内容を検討する人、意思決定者など営業プロセスごとのキー・パーソンを考え、「誰に」コミュニケーションを行うか見極めることが大切です。
同時に、場面ごとに「誰が」も異なります。初期コンタクト、詳しい商品説明、トップ営業など目的によって、最適な「人」と「人数」は異なるはずです。

(7)How Much/How Many(どれくらい?)
How Much/How Manyはコミュニケーションの量、頻度です。
例えば、DM(ダイレクトメール)を送付する場面では発送数や発送頻度などであり、顧客訪問では訪問頻度、回数がこれに該当します。費用対効果(時間、お金などのコストと、目的を達成するための効果)とともに、受け手の都合、気持ちを考える必要があります。過剰なコミュニケーションは、余分なコストを生むだけでなく相手に負担やわずらわしさを与え、逆効果になります。



■状況に応じて最適なコミュニケーション手段を選ぶ

仕事で人に「伝える」場面を考えると、eメールの普及はさまざまなメリットをわれわれに与えてくれました。しかし、メールがいくら普及しても、手紙や電話という手段が無くならないでしょうし、複雑な商談やデリケートなテーマについては、やはり直接会って話をするのが最適です。

以下に、状況、目的に応じたコミュニケーション手段(方法、ツール)と伝達情報を整理しました。それぞれの特性を理解し、状況、目的、相手などに応じた使い分けの参考にお役立てください。

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※言語情報:数値、文字などの言語
※聴覚情報:口調、声の高さ・大きさ、話すテンポ、など
※視覚情報:表情、身ぶり手ぶり、しぐさ、など

■コミュニケーションを高めると、効率よく、少ないストレスで仕事ができる

今回は、営業・販促のシーンを例にビジネス・コミュニケーションを高める5W2Hを説明しました。しかし、前回も述べたとおりコミュニケーションは業種、職種を問わずさまざまなシーンで求められる最も重要なビジネススキルの一つです。

5W2Hのチェックリストを活用し、コミュニケーション手段を上手に使い分けて、効率よく、かつ、気持ちよく日々の仕事を行ってください。


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