あったらいいなをカタチにした
「のりかえ便利マップ」福井泰代
専業主婦だった二児の母がベンチャー社長に
電車に乗るとき、
どの車両に乗れば便利かが
一目でわかる
“のりかえ便利マップ”。
一人の専業主婦が
自ら調べ、形にし、鉄道会社に売り込むことで誕生した。
その人こそ、
株式会社ナビットの福井泰代社長だ。
ひょんなことから会社を立ち上げることになり、
あれよあれよという間に、
大きな会社に育て上げた
福井社長のビジネスの原点は、
旅館の女将である母親から学んだものだった。
「私は会社の女将だ」という、
福井社長の経営哲学に迫る。
自分の足で作った”乗り換え便利マップ“
株式会社ナビットの事業内容
現在、事業は主に3つに分かれています。
1つは、
コンテンツの版権ビジネス。
これは、緯度経度のついた位置情報コンテンツ、
例えばバス停の位置情報データベースというような、
少し特殊なコンテンツの版権ビジネスです。
2つ目は、
全国に25,000人いる地域特派員という、
主婦層をメインとした在宅ワーカーのネットワークがありまして、
この方々への軽作業の請負業務、
電子内職の請負業務を行っています。
3つ目は、
新規事業で、
コンシューマー事業部というところがありまして、
ここでは、
地域のお店の特売情報を毎日更新している「毎日特売」、
学習塾の検索サイト
「e‐juku‐walker(イージュク・ウォーカー)」、
在宅ワーカーのための仕事探しのサイト
「sohos‐style(ソーホーズ・スタイル)」といった、
消費者向けのウェブサイト、
携帯電話の有料サイトなどの運営を行っています。
――御社の商品では、
”のりかえ便利マップ”がとても有名で、
いろいろな駅に必ずといっていいほど貼られていますよね。
あの情報はもともと、
福井社長ご自身が足で調べられたそうです。
どんなことがきっかけだったのでしょうか?
14年ほど前なのですが、
夏の暑い日に1歳の子をベビーカーに乗せて、
JRの西日暮里駅に行ったんです。
ベビーカーだったのでエスカレーターかエレベーターを探したのですが、
駅に表示がなくて、
ホームを行ったり来たりしながら探しました。
結局、見つかったんですが、
最初に向かった方向とはまったく逆で、
ホームの端まで行って、
また逆の端まで戻るくらい歩いたんです。
そうしたら、
暑さで子どもがぐったりしてきてしまって。
その当時、
私は趣味でアイデア商品の発明をやっていました。
それで「これは発明品になるかも」と思って始めたのです。
育児の息抜き程度だったら、
放っておくか
――発明を始めるきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
これも子どもがきっかけでした。
上の子の幼稚園の保護者会に
下の子を連れて出席したときのことです。
下の子はいつも泣いてばかりなので、
まわりに迷惑をかけていました。
でも、
家に置いていくわけに行きませんので、
いつも連れていたんです。
おしゃぶりをくわえさせておくとおとなしいのですが、
すぐに落としてしまいます。
どうしようかと考えて、
おしゃぶりの空気穴のところに輪ゴムを2つ付けて、
マスクのように耳にかけられるようにしました。
それをして保護者会に行ったら、
他のお母さんが「それおもしろいですね。
特許を取ってみたらどうですか?」と言われました。
最初はピンと来なかったのですが、
特許に関する本を買いに行って読んだところ、
発明学会があることを知りました。
それで、すぐに入会することにしたんです。
――思い立ったら、即実行ですね。
子育ての経験があればわかっていただけると思うのですが、
どんなにかわいい子でも、
毎日24時間泣いてばかりだと育児ノイローゼ気味になります。
私もそのとき、
近いものがあったのではないでしょうか。
家のこと、夫のこと、子どものこと、
そればかりの毎日で、
自分がなくなってしまう感覚です。
そんなこともあって、
自分の居場所を求めていたのかもしれません。
――発明をすることに関しては、ご家族の理解はあったのでしょうか。
いいえ。
ほとんど得られませんでした。
夫は「育児の息抜き程度なら、放っておくか」くらいの気持ちだったようです。
でも当時は、
オウム真理教が問題になっていた頃で、
「発明学会のセミナーに行く」と会費を払って通っていましたので、
「悪い宗教にだまされているんじゃないか」なんて思われていたみたいです。(笑)
1年で芽が出なかったら、きっぱり辞める!
――個人で発明をしていたのを、会社組織にしたのはどういう経緯があったのでしょうか。
”のりかえ便利マップ”の原形を作ったとき、
出版社に営業しました。
50社以上に断られ、
ようやく学生援護会さんが採用してくださいました。
次に、
社団法人産業能率協会さんの手帳に採用してもらえることになったんですが、
「個人とは取引ができない」と言うんです。
それで、
法人を立ち上げざるをえなくなったんです。
それでできたのが、
有限会社アイデアママという会社です。
さすがに会社の立ち上げという話には、大反対されました。
「1年間やってみて、芽が出なかったらきっぱりと辞める」
という条件でようやく認めてもらいました。
ただし、
金銭的な協力は一切なし。
唯一、私の母が応援してくれて、
300万円出資してくれました。
それと私が独身時代に働いて貯めていた分を足して資本金にしました。
――なるほど。
1年という期間限定なら、
「まあ、それならやってみれば」となりますね。
駅に貼られるようになるまでには、
どんなことがあったのでしょうか。
発明品って、
発明してもたいていすぐに真似をされてしまうんです。
ですから次に考えたのは、
「これを真似されないためにはどうすればいいだろう?」ということでした。
それで、
駅に貼られていたら真似されないだろうと思ったんです。
早速、
営団地下鉄さん(現・東京メトロ=東京地下鉄株式会社)に営業に行きました。
――地下鉄ではすぐに採用されたんですか。
いいえ。
最初はほとんど相手にされず、
門前払いでした。
育児のストレス解消にと、
半分趣味で始めた発明が高じて、
会社を立ち上げることになった福井社長。
自身の足で調べ上げて作った
”のりかえ便利マップ”は、
発明と呼ぶには
あまりに大きなものだったようです。