なでしこ

天風録.'11/7/19
なでしこ
 万葉集に大伴家持(おおとものやかもち)の歌がある。

「なでしこが
  /花見るごとに
   /娘子(おとめ)らが
    /笑(え)まひのにほひ
     /思ほゆるかも」。

なでしこを見るたびに思われるあの娘の匂い立つような笑顔。
きのう女子サッカーの頂点に立った
 「なでしこジャパン」はまさにそうだった

▲一度も勝ったことがない米国が相手。
 先行されながらも追い付き、最後は見事にPK戦を制した。
 両手で高々と金色の優勝トロフィーを掲げる主将の沢穂希選手。
 周りを囲むイレブンの笑顔がまぶしい。
 久々に日本中が晴れやかな気分に包まれた

▲女子日本代表のゆかしい愛称が発表されたのは7年前の七夕だ。
 2700件の応募から
  「日本女子選手のしんの強さやひたむきさに通じる」と選ばれた。
 その時、沢選手はササにつるした短冊に願いをこう託した。
 「アテネでメダル獲得」と

▲しかし2004年アテネ五輪は準々決勝で敗退。
 4年後の北京では準決勝に駒を進めたものの、
  メダルの夢を果たせなかった。
 ともに世界ナンバーワンの米国に阻まれたのも因縁か。
 やっと借りを返した思いだろう。

▲「本当にびっくり。ちっちゃな娘たちが粘り強くやってくれた」。
 佐々木則夫監督ばかりか世界が驚いたに違いない。
 なでしこの花言葉といえば「純愛」。
 もう一つ「諦めない心」を加えたい。
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「謝罪の品格」

天風録.'11/4/24

謝罪の品格パロディー作家のマッド・アマノさんには、
 不祥事のたびに頭を垂れる企業トップらを分析した著書がある。

その名も「謝罪の品格」(平凡社新書)。

人や組織の「人格」のすべてが露出する謝罪にこそ、
 品格が問われるべきだと説く

▲「もっと心のこもった陳謝があるのではないか」。
 東京電力の清水正孝社長をたしなめたのは佐藤雄平福島県知事だ。

 責任放棄ともとれる「想定外」が連発された
  福島第1原発の事故から40日余り。

 着の身着のまま古里を追われた人々の怒りや不安が、
  知事の唇を震わせた

▲足を踏まれた人の身になってこそ、
 こもる心があろう。

 そんな機微にとても敏感なのが被害者側だ。

 東京で会見する社長らを見ていて
 「うんと遠く感じる」という知事の苦言。

 避難所に身を寄せる人々は
 「ここに住んでみては」と社長に迫った


▲地元への謝罪は
 福島第2原発の再稼働に向けた最初のステップとの見方もあった。

 真心ならぬ下心が透けて見えたのかもしれない。
 知事は「再稼働はありえない」と断言した

▲東電は組織の「人格」を改め、
 謝罪を態度で表すしかない。


 それにしても社長に向けられた

 「早く原発を東京に持って帰ってください」

 という避難住民の叫びが耳に残る。

 品格を問われているのは、
  果たして東電だけなのだろうか。

天風録 震後の世界 '11/4/19

関東大震災の時に広まった
 「震前」「震後」という言い方がある。


ある日を境に、
 ものの見方や考え方が一変してしまう。


阪神大震災の年は
 ボランティア元年と呼ばれた。

 「人を救うのは人しかいない」。

 日本中がそう気付かされた

▲このたびの大震災は
 震後の社会に何をもたらすのだろう。
 「3月11日以前と以降で
  人々の心のあり方が違ってしまうのではないか」。

 直感した山田洋次監督は、
  家族をテーマにした新作映画のクランクインを急きょ見送った

▲脚本を一から見直すという。
 監督生活50周年記念として選んだ
  戦後の名作「東京物語」のリメークだ。

 今につながる核家族の時代を先取りし、
  揺れる絆を描いた小津安二郎監督の代表作。

 親子のだんらんや情愛が
  薄らぎつつある社会を問い直すつもりだったらしい

▲東北からは、
 まだ震災のさなかにいる家族の姿が連日のように伝えられる。
 覚えたての字で行方不明の母親に手紙をつづった女の子。
 妻の写真をゼッケン代わりに捜し歩く男性。
 見ず知らずの親子を濁流から救いながら事切れた夫を誇りに思う妻もいる

▲寅さんや学校シリーズを通じ、
 懸命に生きる家族や庶民に寄り添ってきた山田監督。
 引き揚げ体験から戦後を歩みだした79歳の目に、
  震後の家族はどんなふうに映るだろうか。

世界の思いやり

'11/4/7

世界の思いやり

「どこから?日本人ならチップは要らないよ」。


知人がインドネシアで乗ったタクシーの運転手に声をかけられた。
東日本大震災の半月後のことだ。
7年前のインド洋大津波で家を失ったと聞き、
 思わず胸が熱くなったという

▲その大津波で親を失った遺児たちは、日本からの衝撃的なニュースにひときわ胸を痛めたに違いない。「僕たちも被災した仲間。悲しまないで頑張って」。そんな寄せ書きが現地の日本大使館に届いた

▲外務省のホームページに、こうした善意の数々が紹介されている。モンゴルの養護施設で暮らす児童たちは生活費を割いた。サッカーボールを託したのはパキスタンの難病患者。ハリウッドのスターたちからの巨額の寄付もありがたいが、痛みを知る人たちの心遣いもまたうれしい

▲「思いやりのバトンは世界中からも届けられた」。菅直人首相が小学生に向けたメッセージの一節だ。被災地を救おうと各国から人と物資が集まった。「世界中の困った人たちに返してあげられる大人になって」との呼び掛けに、うなずいた子も多かろう

▲中国地方も新学期を迎えた。小学校では地球儀が教材として登場する。地球を半周した大津波の恐ろしさ。ちっぽけな島国が思いやりに包み込まれる。球を回してみて気付くこともある。

40万マイクロシーベルト

天風録.'11/3/16

物差し

いつの間にか目盛りが変わっていた。

きのうの枝野幸男官房長官の記者会見。

一円の話でやきもきしていたはずが、
 実は千円でしたと言われたかのよう。

東京電力福島第1原発で測定された放射線量である

▲官房長官は
 「3号機付近で400ミリシーベルト」と公表した。
 
 ミリとは、それまで使っていたマイクロの千倍に当たる。

 つまり40万マイクロシーベルトの言い換えだ。
 「単位が一つ違う」と付け足してはいたものの、
 果たして国民に正しく伝わっただろうか

▲400ミリシーベルトの放射線を1時間浴び続けると、広島原爆では爆心地から約1・6キロにいた人に相当する。専門家も人体に影響が出るレベルと驚きを隠さない。近くで作業していた人たちの健康が心配だ

▲「作業員や職員の移動を開始した」。きのうの東電の会見資料にはそんな表現もある。何を指すのかと思いきや、安全な場所への「退避」だった。分かりやすい言い換えをしたつもりなのか。それとも穏便に済ませたいと気を利かせたのだろうか

▲放射線量を公表する官房長官の額から汗が噴き出ていた。事態の重大さを物語る。一円硬貨と千円札の違いならたやすく区別はできよう。しかし放射線は見ることも触ることもできない。においもない。物差しを替えるなら、もっと丁寧に説明してもらわないと困る。
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